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鼻声の二人

朝起きたら、声を失くしていた。
風邪が悪化。
雨の音が控えめながらも屋根を打っている。

しかし、喉は強い方なので珍しい。

夜。何とか声が出たので、
駅前で、少々打ち合わせ。

帰り道フト顔を上げると、ほんの目の前に
傘をささない若い女性が歩いている。

距離にすると、7・80センチメエトルといったところか。
私の傘が、ほぼ彼女の頭に差しかかっていた。

と、思っていると、突然に彼女が振り返り、
二人「おおっ」となると同時に半ば彼女は
私の傘の中に居た。

とっさに私は「どうしました」
と聞くと、彼女は「携帯を落としました」
と言うのだ。
「探しましょう」
私は、彼女に傘を差し出しながら、
横を歩いた。

女同士とはいえ、突然知らない人に
付いて来られて、怖がっていないだろうか・・・。

雨の中歩いていると、
彼女が頻繁に鼻をすするので、
同じ、風邪っぴきかと思い、
風邪ですか?と聞くと、
私、風邪ひかないんです。と応える。

ああ、泣いていた。
私の愚鈍が・・・。

携帯電話、探す。

よくよく考えると、あのような道の真ん中で、
彼女は、あまり雨に濡れていない。

不思議だ。

あった。
携帯電話が、見事、彼女の証言通り
その辺にパタンと落ちていた。

二人、引き返す。
私のひどい声を聞いて、謝る彼女。

いえいえ、と言った後、黙って歩く二人。

「人におかしい
 おかしいって言われるのは嫌ですよね
 自分が悪いってわかってても・・・」

鼻声の彼女が突然震える声で言った。

私は、雨の中、濡れながら歩くあなたを見ても、
よく見たら、濡れてなくても、変だと思わなかったですよ。
だから、あなたは大丈夫。

どちらかと言うと、そこに着いて歩いた私がおかしく
思われないかが心配でしたから・・・。

何を紛らわす為にか、本当に思った事を言った。

力なく笑った。

あなたに、暖かい毛布にくるまる夜を